電池の歴史3 小型充電式電池(二次電池)

[1] ニカド電池(Ni-Cd電池)

 ニカド電池は、今から100年以上前の1899年にスウェーデンのユングナーが発明したものが最初と言われています。その後、1960年初頭に米国で商品化され、日本でも1963年から64年にかけて、三洋電機、松下電器産業が民生用として相次いで量産化しました。
 この電池は、負極活物質にカドミウム (Cd)、正極活物質にオキシ水酸化ニッケル (NiOOH)、電解液にアルカリ溶液を用いる電池で、電圧は乾電池とほぼ同じ約1.2Vです。産業用では開放型がありますが、民生用の殆どは密閉型電池で、液漏れの心配がありません。
 密閉型の実用化にあたっては、充電末期に正極から発生する酸素ガスと負極から発生する水素ガスによる内圧上昇・電池の破裂をいかに防ぐかが課題でしたが、1940年代後半にフランスのノイマンによって考案された、負極の量を正極よりも多くするなどの技術によって、水素ガス発生の抑制、酸素ガスの効率よい吸収が達成され、密閉化が実現出来ました。
 ニカド電池は、頑丈であること(過放電、長期間放置しても性能低下が少ない)、優れた大電流特性(負荷特性)という特長を活かして、コードレス電話や、電動工具、シェーバー、非常照明等に現在も使われています。

[2] ニッケル水素電池(Ni-MH電池)

 1990年代になると、携帯電話、ノートパソコン、カムコーダー、デジカメ(デジタルスチルカメラ)などに代表される小型電子機器が急速に普及しますが、その立役者の一つが、1990年に世界で初めて、松下電池工業、三洋電機が相次いで量産化したニッケル水素電池です。
 この電池は、ニカド電池の負極を“水素吸蔵合金”に置き換えた構成をしており、電圧もほぼ同じ約1.2Vです。このハイテク材料の採用でエネルギ密度が大きく向上しました。1980年当時、負極用水素吸蔵合金開発で他社に先行していたのは東芝で、その成果は、1984年の電池討論会で世界に先駆け報告されました。東芝は2000年にも構造が全く異なる新しい合金材料「超格子合金」を発表しています。ユングナーによるニカド電池発明以来、およそ100年振りに新しい充電式電池が登場したことになります。ニッケル水素電池の密閉化もニカド電池と同じ考え方でなされています。
 その後しばらくは、この材料系での改良が進みましたが、東芝電池のニッケル水素事業を引き継いだ三洋電機が「超格子合金」を実用化し、世界最高レベルの水素吸蔵能力を達成するなど、現在も技術革新が続いています。
 また、ニッケル水素電池は、有害物質であるカドミウムを用いていないことから、環境面でも評価され、ニカド電池の置換えや、前述の小型電子機器用途として普及しました。乾電池と互換性のあるタイプでは、高容量化や充放電可能回数のアップ、低自己放電化などの改良により、使い勝手と経済性が向上し、ユーザーの環境意識の高まりもあり需要が拡大していきました。また、車載向けでは、世界初の量産ハイブリッド車(HEV)に搭載されました。

[3] リチウムイオン電池(Li-ion電池)

 電子機器の更なる高性能化、多機能化の流れの中で、ニッケル水素電池を越えるエネルギ密度を持つ電池として登場したのがリチウムイオン電池であり、1991年にソニー・エナジー・テックが世界で初めて量産化しました。現在では、各社から発売されています。
 この電池は、約3.7Vという高い放電電圧を持つリチウム系の充電式電池でありながら、リチウムの溶解・析出反応を伴わず、リチウムイオンを吸蔵・放出できる正極と負極の組合せで成り立っているため、500回以上の充放電に耐える良好なサイクル特性が特徴です。具体的な電極材料としては、正極活物質としてコバルト酸リチウム (LiCoO2)、負極活物質として炭素材料 (C) が用いられてきましたが、最近では、ニッケルやマンガンを含んだ正極材料や、スズを含んだ負極材料なども実用化され、性能向上に寄与しています。
 更に、ニカド電池やニッケル水素電池と比べ、軽い、メモリー効果がない、自己放電による容量低下が少ないなどの特徴も有しており、小型軽量化、高機能化が進むモバイル機器に瞬く間に搭載されていきました。その過程では、主に電極材料や構造の改良により、市場に登場してから十数年でエネルギ密度は2倍以上に達し、外装材としてのアルミ缶の採用、ポリマー電池などのラミネートタイプの実用化といった技術革新によって、更なる軽量化・薄型化も進められています。
 また最近では、電動工具や、電動アシスト自転車、電気自動車のような、これまでニカド電池やニッケル水素電池が得意としていた高出力タイプのアプリケーションへの搭載も進んでおり、リチウムイオン電池の需要は更に拡大を続けています。